辻斬り書評  -5ページ目

気になるニュース

ヘロイン禍、中国深刻 「黄金の三日月地帯」から流入激増


【北京=野口東秀】「アフガンタバコ」「黄粉」などと呼ばれるヘロインが、大量にアフガニスタン などから中国 に流入している。中国 公安当局によると、新疆ウイグル自治区のウルムチ市だけで2000年の7倍、約7トンものヘロインが流通しているという。中国 紙「南方都市報」がこのほど報じた。これらヘロインは最終的に北京、上海、広州など都市の「地下市場」に流れ込んでいるという。
 ヘロインは、アフガニスタンパキスタン 、イランの国境地域「黄金の三日月地帯」(ゴールデン・クレセント)から新疆ウイグル自治区に密輸されるという。
 ウルムチ市だけで中毒者は1万人を超えるといわれ、同市の疾病コントロールセンターの担当者によると、人口1900万人の同自治区では今年6月現在で、エイズウイルス(HIV)感染者が1万6000人いるが、うち1万2000人は注射の回し打ちなど、原因はヘロインに関連しているものという。
 「アフガンタバコ」の特徴は、東南アジアのヘロイン生産地「黄金の三角地帯」(ゴールデン・トライアングル)産に比べ、「4倍の吸入効果があり夢心地となる。中毒者にとっては、ゴールデントライアングル産はくず同然」とされる。
 「黄金の三角地帯」では、摘発強化でアヘンの原料となるケシ畑が減りアヘンの生産が急減、国連 薬物犯罪事務所(UN ODC)は、アフガニスタン が世界1の供給国と報告している。
 「アフガンタバコ」の販売価格は、1グラム600元(1元約15円)で、1グラムが20パックに分割され、1パック40元から50元の安さで販売されていることも市場拡大の要因だ。
 販売組織は、アフリカ人、パキスタン 人を運び屋として雇い、体内に隠すなどの方法で1キロ単位で密輸、成功報酬は4500米ドルという。
 中国 国家禁毒委員会は今年6月、ヘロインなどの麻薬や覚せい剤の常用者が昨年末で78万人、ヘロイン常用者の7割が35歳以下と深刻な状況を報告している。中国 当局は昨年、薬物事件で5万8000人を摘発、ヘロイン約7トンを押収しているが、当局者は、新疆ウイグル自治区になだれ込むヘロインの量は、摘発分の約10倍と指摘する。

<産経新聞>


http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/china/27280/



アフガニスタン、いつの間にか麻薬生産のメッカに返り咲いてますね。あの国にはこれぐらいしか産業と呼べるものがないわけで、戦争やらなんやらがあっても結局もとの木阿弥、哀しい話です。

中国にとってはアヘンの悪夢の再来か。





伊藤忠、ブラジルでバイオエタノール生産


伊藤忠商事はブラジルで現地政府系企業などと、自動車用代替燃料のバイオエタノール生産に乗り出す。同国東部に年産20万キロリットルの工場を数カ所建設、2010年までに生産を始め、日本に輸入する。日本政府が温暖化ガス削減のためバイオエタノール導入を予定していることを踏まえ、サトウキビが豊富で同製品の主要生産国であるブラジルに拠点を持つ。

 伊藤忠は13日、同社が4.9%出資する現地合弁の農地開発会社「日伯農業開発」「サンフランシスコ川流域開発公社」の2社と生産に向けた合意書に調印する。 (07:17)  NIKKEI NET


http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20061112AT1D1005611112006.html



安倍政権のエネルギー政策にもリストアップされているバイオエタノール、今後の展開に期待大ですねえ。

いずれは沖縄の基幹産業にしてほしいところです。

産業の不在は地域を駄目にするもんね。



気になるニュース

ビートルズ生演奏で著作権法違反、スナック経営者逮捕

 警視庁石神井署は9日、東京都練馬区石神井町3、飲食店経営豊田昌生容疑者(73)を著作権法違反の疑いで逮捕したと発表した。

 調べによると、豊田容疑者は今年8、9月、経営する同区内のスナックで、日本音楽著作権協会と利用許諾契約を結ばずに、客の求めに応じて、同協会が著作権を管理するビートルズの「イエスタデイ」など外国の曲計33曲をハーモニカで演奏したり、ピアニストに演奏させたりした疑い。

 豊田容疑者は1981年にスナックを開店して以降、生演奏を売りにしていた。同協会では契約を結ぶよう求めていたが、従わなかったため、今年9月、同署に刑事告訴していた。

(読売新聞) - 11月9日15時18分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061109-00000105-yom-soci




著作権のことはよくわからないけど、これは常軌を逸しているように思う。

営利演奏ということで「演奏権」なるものに抵触するそうなんだけど、ま、無粋なハナシですな。




ところでアメブロ、勝手にトラックバック拒否を基本設定にするなよ。

二度手間だし、方向性が間違ってやいませんかねえ?

第一、ネットが自閉してどうすんだ。


ユーザーの意見↓

http://ameblo.jp/staff/entry-10019212702.html#cbox

「男は旗」稲見一良 / 少年の心が書かせたハードボイルド風小説

今日のBGMはhot hip trampoline school「大阪ナウ!!」。

スカパラが絡んでいる同種のバンドだけれど、基本的にスカパラよりもやんちゃで男臭い。

特にこのアルバムは燃えますぜ。


hot hip trampoline school
大阪ナウ!!



さて、久しぶりに初読をば。

辻斬りを標榜する当ブログ、本来ならば作者を選ばず手当たり次第に読まなければ、確率的にどうしても「看板に偽りあり」な事態になるのだが、どうにもハズレを回避する卑しい嗅覚ばかり発達していけない。

不遜ながら、右や左をかまわず斬って捨てる蛮勇なくしては真の読書家とは言えないのであーる。

斬りかかった相手に易々と返り討ちにされるようではいかん。

ましてや獲物を選ぶなぞ。


てなわけで。

一部熱狂的なファンを持つらしいこの稲見一良という作家は、わずか数編の小説を書き上げたあと惜しまれながら病没したそうな。そのせいか、ただでさえ少ない作品に絶版率が高い。

ネットを介せばまだまだ手に入るものも多いみたいなので、気になる方はお早めに。



腰巻にあるあらすじ書きを書き写すのも面倒なので、アマゾンのデータを引用してみよう。


大海原を制覇し、その優雅な姿は“七つの海の白い女王”と嘔われたシリウス号も今は海に浮かぶホテルとして第二の人生を送っていた。ところが折からの経営難で悪辣なギャングに買収されてしまう羽目に。しかし!シリウス号に集う心優しきアウトローどもが唯々諾々と従う筈はない。買収の当日、朝まだきの海を密かに船は出航した。謎の古地図に記された黄金の在り処を求めて…。


はい。簡単に言やあ、フローティングホテルの従業員が売却寸前の船をかっぱらって、一躍大海原に漕ぎ出す物語。

前半は出港までのゴタゴタを、後半からは趣きを変えてあてどない宝探しの航跡を描いております。

このうち読むに耐えるのは前半まで。後半はどうにも雑というか、ほとんど素人のレベルです。奥付をチェックすると、小説誌に掲載された前半と違い、後半部分は書き下ろしで追加されたらしい。どうりで精度が違うわけだ。この間にどれだけの期間が空いたかまでは知らないけれど、筆力が急激に衰えてるよなあ。


前半から散見されるご都合主義な筆運び、これはまあ我慢できなくもないが、なにより不満な点は常にメインキャラの身辺を離れない飼い鳥「チョック」を物語の主格に設定することによって、ハードボイルド小説によくある一人称「おれ」が語るスタイルがぶち当たる限界(「おれ」が経験的に物語るかっこうの小説では、「おれ」が同時に存在していない場所での出来事や他の登場人物の心情を書くことは本来不可能なはずであって、後に聞かされたと断るか、はたまた「おれ」が時空を超えた存在つまり神か霊魂かでもない限り、この種の矛盾を免れることはできない。)をうまく回避したにもかかわらず、それをうまく活用しきれていないことだ。

作者本人もその設定を失念していたような節があり、それでもときどき思い出したように「チョック」目線を強調する場面がでてくる始末で、ひどく安定性を欠く。

こういう不手際を見せられては話に没入できないんだよねー。幻滅。


の、わりに最後まで読み通すことができたのは、ひとえに僕が海洋冒険小説が好きだからだ。そして、稲見一良もまた海洋冒険小説が好きで好きでたまらないことが行間からありありとわかったから。

プロットがマズかろうがユーモアの感覚が僕とずれていようが、この一点を以って許容できたのであーる。

夜毎枕に頭を置きながら、宇宙船を駆ってどことも知れぬ宇宙を冒険する空想に遊んでいた僕の小学校時代の童心と見事に符牒するとあらば、どうして作者の童心だけを責められようか? 童心をそのままに作品化しただけでじゅうぶんではないか。

というわけで、決してよい出来とは言えないながらも僕は本作に満足したのであった。

逆に、海洋冒険小説ファン、あるいは銃器ファン(僕はそうではないのではっきりとは断言できないのだが、銃に関してかなり通好みな記述が見受けられる)以外には、ちょっとおすすめできないと思う。あとは男子中学生くらいかな?



ちなみに僕の童心の方はと言うと、今宵の大冒険のパートナーは誰に……とクラスのかわいい女の子の顔をぐるぐると回しているうちに眠りに落ちることが大半であったため、ついぞ物語に昇華されることはなかったのであります。



稲見 一良
男は旗
オススメ度★★




泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も寝られず

という落首だったか、ペリー来航の騒擾に際して世に出回ったそうなんですが(「上喜撰」てのは当時流行していた高級茶の名前だと記憶しております。4隻でやってきたペリー艦隊と掛けてるわけね)、「グラビア界の黒船」という遊び心を感じさせるキャッチをひっさげたリア・ディゾンの公式ブログ がアメブロにあるのをご存知でしょうか?


あまりこの人のことは知らないんだけど何気なくアメブロ管理画面の更新速報から飛んでみたら、なんと彼女のブログ、毎度まいど日本文と英文が併記されているみたいなんですよね。

まだ日本語をマスターしていない彼女が英語で記事を書き、それを誰かスタッフが翻訳して掲載しているようなんですが、これが滅法勉強になる。

高校や大学受験には直接寄与しないであろう性質の、母国語人ならではのこなれた言い回しや慣用表現が散見されて、ひさしく英語に触れていない人間にとってはいい刺激になりそうな雰囲気です。


社会人になってからあらためて英語を勉強したい! という方って多いじゃないですか?

かと言って、一念発起してとりあえず英会話教室に通い始めるわけでもない僕みたいな人間には、さしあたってこのブログあたりがちょうどいいのかもしれませんよ。

ちょっと大胆な予想ですが、きちんとした企画のもとでブログ運営されたらば、異色の英会話読本として出版される可能性だって出てくるんじゃないでしょうか。

もし実現されたら、これは新機軸ですよねえ。

「ブログ本」兼「写真集」兼「英会話読本」だなんて、出版社にしたら1粒で3度おいしい本ができあがるわけで。

アメーバブックス史上、類を見ないヒット作が生まれるかもしれません。


サイバーエージェントさん、そんときゃあアイデア提供ってことで、ひとつよろしくお願いしますぜ(笑)。



収穫祭 ~幸村 誠「ヴィンランド・サガ3」&惣領冬実「チェーザレ1 2」

幸村 誠
ヴィンランド・サガ 3 (3)


でました、「ヴィンランド・サガ」の最新刊。

いやはや、毎度のことながら全編戦闘です。


未見の方のために説明するとですね、「ヴィンランド・サガ」は中世ヨーロッパ(の、主に北方)を荒らしまわったヴァイキングのお話。名高い戦士であった父を失った少年トルフィンが、その父を手にかけた傭兵団の長アシェラッドらと行動をともにしながら成長していくという筋です。

当然このふたりは緊張関係にあって、まあ古狸のアシェラッドがトルフィンをいいようにあしらっているんですが、冷徹な価値観をもつ統率者と、がむしゃらな若者を描くことに関してはピカイチの幸村 誠だから、両者のあいだにはなんともいえない独特の空気があるわけです。

このへんがまずたまらない。

で、タイトルにもある「ヴィンランド」というのは、レイフ・エリクソンが発見したという北米大陸のことなんですね。

学術的には証明されたとは言えないんだけど、コロンブスよりも500年早くヴァイキングがアメリカに到達していたというこの説を下敷きに、ヨーロッパ大陸にとどまらぬ地理的なひろがりをもったサーガが展開されていきます。

今回の新刊ではこの空間性に加えて時間性が強調されるシーンもあって、歴史漫画の奥深さを感じさせてくれます。

ロマンですよ、こいつは。


「プラネテス」の作者が描く、むくつけき男の世界。

しかしこの漫画、女性ファンはいるのかねえ?




惣領 冬実
チェーザレ破壊の創造者 1 (1)
惣領 冬実
チェーザレ破壊の創造者 2 (2)


これは拾い物。

イタリアの梟雄チェーザレ・ボルジアの生涯を問い直す試みのもとにスタートされたらしいんですが、チェーザレファン垂涎の出来になっております。

完全に俗化したローマ教会において頂点に君臨する父教皇(法王)のもと、イタリア統一をもくろむ若き天才チェーザレ・ボルジア。

32歳にして志半ばに斃れることになる彼の、時代を超越した熱く冷酷な精神がどう描かれるのか。

日本ではあまり知られていない重要資料に依拠した「新説チェーザレ・ボルジア伝」に期待大。

壮大な歴史物語が編まれそうな予感にワクワクしています。


この作品、内容はもとより、教会の内装から衣服の一枚に至るまで心尽くされた時代考証がすばらしいです。

歴史漫画の一番難しいところって、実は小道具や背景がどこまで正確に復元されるかなんですよねー。

「ヴィンランド・サガ」しかり「チェーザレ」しかり、そのあたりに抜かりがないから安心して読める。

まったく知らないままに買ったんだけど、いい漫画に当たりました。

たまには漫画の新刊コーナーにも行ってみるもんだなあ。



塩野 七生
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷


↑ チェーザレ・ボルジアといったらコレ。曹操や信長にも通底する創造的破壊が、あますところなく語られています。






「宋姉妹 中国を支配した華麗なる一族」伊藤 純・伊藤 真 / 中国現代史における女三国志 

「昔、中国に3人の姉妹がいた。ひとりは金を愛し、ひとりは権力を愛し、ひとりは中国を愛した……」


二十世紀が始まろうとしていた中国で三人の姉妹が産声を上げた。財閥の娘として生まれた彼女たちは、アメリカで豊かな青春時代を過ごす。そして帰国した三人は、それぞれの伴侶を求めた。長女靄齢は財閥・孔祥煕へ、次女慶齢は革命家・孫文へ、三女美齢は政治家・蒋介石へ嫁いだ―。これはまた、彼女たちの人生の大きな岐路であった。様々な思惑が錯綜する、革命という時代のうねりの中で、それぞれに愛憎と確執を抱きながら生きた三姉妹。ときにしたたかに、ときに純粋に、己の信じる道を生きた三人の運命を描きつつ、激動の中国史を活写した、出色の歴史ノンフィクション。(背表紙解説より)




歴史転回の源を特定の個人に求める観法はおよそ客観的ではないが、一時代を物語的に理解するぶんにはこれほどおもしろいことはない。

しかもそれが20世紀という時代の一集約地域となった中国を舞台に、血を分けた実の姉妹のあいだで繰り広げられた愛憎劇だったとすれば、古今を通じてこれほど劇的な演題もそう多くはないはずだ。


列強の侵食を食い止めるべく清朝を打倒するも、自らが新しい王朝の祖となる野望を燃えあがらせた袁世凱の離反、さらには新興国家日本の台頭に悩まされるなど、なお恐るべき国難の渦中にあった中国。

財閥の娘として生を受けた宋家の3姉妹、靄齢・慶齢・美齢は、アメリカ留学から帰国するや若き精神をそのままにそれぞれ孔子の裔、革命の父、国の指導者に次々と嫁し、その教養と権勢から、政治性を帯びた半ば公人として激動の歴史に大きく関与することとなった。

国民政府の財務を担う夫を持つ靄齢は莫大な財を成し、国父孫文のカリスマを受け継いだ慶齢は党の重要人物と目されるようになり、末妹の美齢に至ってはついには最高権力者の夫とともにカイロ会談 に出席するまでになる。

と同時に血で繋がれた強固な絆を武器にして、宋家の子弟たちもまた政権で重要な地位を得ることとなったのである。


このように、国民政府のもと一枚岩のごとく結束し「宋王朝」と揶揄されるほどに栄耀栄華を誇った一族にも、やがて崩壊の影が忍び寄る。対日合作の一時期を挟みつつも、国を二分して争われた国共内戦がその原因だった。

同胞同士が殺しあうさなか、理想と現実との二極に引き裂かれた姉妹は次第に対立の色を濃くしていく。

わけても孫文夫人からのちには共産党国家名誉主席となった次女・慶齢と、蒋介石の没後、台湾中華民国の総統就任さえ囁かれた三女・美齢の相克は劇的だ。

孫文の理想から遠ざかる一方の国民党を轟然と非難し、ついには革命の正統性を共産党に与えて一族と袂を分かった慶齢と、対日戦争中はクリスチャンのファーストレディとして欧米の支持を集める役割を果たし、内戦に敗れて台湾に追い落とされてからは大陸反攻を唱え続け、朝鮮戦争勃発の機をとらえて渡米し一大センセーションを巻き起こした美齢の人生は、互いに相容れぬ国家の象徴となったふたりなればこそ、海峡を隔てて二度と再び交わることはなかったのである。



宋姉妹の残した事跡はたとえそれが教科書に載るような性質のものではなかったかもしれないにせよ、彼女らの生きた軌跡を追うことによって現代中国史の沿革をなぞることはじゅうぶんに可能だ。

なかんずく慶齢のそれは、将来の中国共産党研究の分野でも特別の地位をしめることになるはずだ。

孫文や蒋介石の名は知っていても、革命と戦争のはざまに大きく浮かび上がり、陰に陽に影響力を持った宋姉妹を知らない者は少なくないだろう。

僕も本書で初めて知り、いかに自分が現代中国について無知であるかを痛感した。

美齢は21世紀まで生き残った。アメリカでひっそりと晩年を送った彼女の死が報じられたのは、ほんの数年前のことである。


無自覚な人間のすぐ隣でさえ、ありありと歴史は息づいている。

蒙昧はときに罪だ。


伊藤 純, 伊藤 真
宋姉妹―中国を支配した華麗なる一族


オススメ度★★★★

「流れよわが涙、と警官は言った」フィリップ・K・ディック / ハードボイルドSFの名作?

今日はバド・パウエル なんかを聴きながら。

ライブ版で聴く「Star Eyes」は迫力満点であります。



さて、「流れよわが涙、と警官は言った」。

SF小説の世界では有名な作品なんですが、なんとなく気乗りしなくて読んでいませんでした。

たぶん僕はSFにあまり文学性を求めなていないんだろうなあ。

直感おそるべし。


物語の設定は1988年となっているけれど、まあ近未来社会を描いていると思ってくださいな。

ちなみに小説が発表されたのが1974年です。

本書の内容を簡潔に記すと、有名なテレビ番組司会者ジェイスン・タヴァナーが一夜にしてまったく無名の人物になってしまい、どころか公的にも存在しない人間となって見知らぬ街区をさまよい歩くお話。

どうにか恋人や旧知の人間とコンタクトを取るものの、彼らの記憶からはことごとくタヴァナーが欠落しているという不可思議な状況に打ちのめされる主人公。

どうしてこうなってしまったのか、はたまた元に戻る方法はあるのか。

彼自身の出生の秘密がチカチカと明滅を繰り返しながら、タヴァナーは出口のない世界で必死に光明を探すのだが……。



まずは超管理社会において記録を抹消されたことによるアイデンティティ・クライシスと、それにとどまらない「存在の不安」を基本テーマとした内容で、と同時に、それほど明確化されてはいないものの量子論的SF小説の最先駆になる作品なんじゃないか、と思います。

本作が発表された当時ならちょっとした問題作と騒がれたんだろうけど、いまとなってはこれらのテーマは消費尽くされた観が否めないところ。

こうなってしまっては、SFらしからぬ(?)ハードボイルドタッチを除けば他にこれといって魅力的な要素もなし。

僕のような新しい読者にとって惜しむらくは、上梓から30年のあいだに本書にあるようなガジェットが一般化してしまったことでしょうねえ。それだけ本書に影響力があったことの証左にもなるわけですが。


それにタヴァナーの受難よりも、タイトルにもある「流れよ、わが涙」という台詞を吐く警官の人物造形のほうがずっとおもしろいんです。

彼と彼にまつわる事象は終盤になって出てくるくらいなんで分量的にはメインたりえないんだけど、わざわざタイトルに持ってきているくらいだから、本来作者の主眼もこの警官の人間性を描くことにあったように思うんですが、いかがでしょうか?

当人には迷惑きわまりない話だけど、不運なタヴァナー君は壮大な舞台まわしでしかないってことですな。

うーん、合掌。


友枝 康子, フィリップ・K・ディック
流れよわが涙、と警官は言った

オススメ度★★★


Bud Powell, バド・パウエル
ベスト
ストックホルムのジャズクラブでのライブ音源から選り分けられたベスト盤。
廃盤になってますが、中古なら出回ってるそうです。

よしなしごと

昨日の更新に引き続き、久しぶりにアメブロの中を徘徊いたしております。

いろいろと仕様が変わっているみたいですな~。

管理画面が複雑になってるし。


で、オフィシャルブログなる欄を何気なくクリック。

モデルさん?のブログ に飛んだわけですが。


まァ、エントリにある写真がおもしろい。

なにがって、ポージングがぜんぶ同じなのね。小首をかしげる角度やら、笑顔の形やら。それこそ寸分違わずに。

プロのモデルさん(?)なんだから得意のパターンを踏襲してるんだろうけど、ナンですな、観光地にあるベタな記念撮影用の人型をそのままエッチラオッチラ運んできたみたいやないですか、これ?





なんてことを思いながら、ヘッドホンでCDを聴いておるわけです。

ちょっと前にリリースされたJETのヌーアルバムですよ。

これがまたよい

粗っぽさを多分に残しながらも硬骨なロック魂を縦横に炸裂させていたファーストアルバムに較べると、重厚感がいや増した出来になってます。

そのぶんイガラっぽさはやや薄まってしまってるんだけど、特にミドルテンポの曲がとても肉厚に仕上がっていて素晴らしい。

ストーンズの生き写しのようだった前作(と今作のあいだに、ミニアルバムも出てるんですが)と明らかに違う点は、中期から後期にかけてのビートルズをより感じさせる楽曲が多いところ。

つまり内省的なタッチのメロディなりストリングスなりが加算されているんだな。

だから、哀愁も強く薫るわけ。

もちろんJETの売りであるハリネズミのような攻撃的ロックは失われていないので、ファンの方は安心して購入してください。

なぜかメチャクチャ安い値段で販売されてますから。


ジェット
シャイン・オン(初回限定盤)


ジェット
ゲット・ボーン
ジェット
レア・トラックス

北朝鮮が核実験実施 プルトニウム型原爆か

北朝鮮が核実験実施

 プルトニウム型原爆か

 【ソウル9日共同】北朝鮮の朝鮮中央通信は9日、北朝鮮が初の核実験を行ったと報じた。プルトニウム型原爆とみられ、昨年2月に核兵器保有を公式宣言していた。今年7月の弾道ミサイル発射を上回る強硬措置。10月3日の外務省声明通り実験を行ったと表明したことで日米など国際社会は強く反発、国連での制裁論議は必至だ。昨年11月以降中断している6カ国協議は完全に崩壊し、朝鮮半島情勢は1994年の核危機以上に深刻な事態に陥り、米朝間の緊張が危機的な状況に達する恐れもある。

 韓国の聯合ニュースも9日、韓国政府当局者が北朝鮮が核実験を行ったとの情報があると述べたと報じた。韓国政府は9日、盧武鉉大統領が主宰する緊急の安全保障関係の閣僚会議を開き、対策を協議するという。

 実験場所は地下につくった核実験施設とみられるが、核爆弾の数や規模などは不明。

 北朝鮮は金融制裁をはじめ米国主導による北朝鮮包囲網強化に危機感を強め、「核保有国」であることを誇示、米国を直接交渉に引き出す狙いとみられるが、米国が応じる可能性は低く、中国やロシアも厳しい対応を示すのは確実で、国際的孤立が一気に深まった。

(共同)

(2006年10月09日 12時15分)
おいおい、マジかよ!

「カエサルを撃て」佐藤賢一 / カエサルを世界に解き放った男

ガイウス・ユリウス・カエサル。英語読みでジュリアス・シーザー。

「ブルータス、お前もか」で有名な、古代ローマの英雄である。

彼の歴史的な功績をひとことで表すなら、ローマに帝政の道を敷いたことだ。

以下、古代ローマについて軽く敷衍する。


イタリアに興ったちっぽけな都市国家ローマは、戦争で降した相手に順次ローマと同等の権利を与えていく「ローマ化政策」ともいうべき独特の統治システムによって、建国以来イタリアの地で膨張に継ぐ膨張を重ねていったのだが、北アフリカに君臨した商業国家カルタゴとの闘争を経て手中に収めた地中海世界に加え、その版図をガリア(現在のフランス)にまで拡げた紀元前1世紀ごろから、それまでローマの国家運営を円滑ならしめていた、貴族を中心とした諮問機関「元老院」とローマ市民権を有する庶民で構成される「市民集会」による民主政体制の旧態化が誰の目にも明らかになっていた。

時と経験に研磨され洗練されてきたとはいえ、しょせんは都市国家時代の政治体制なのである。早晩手詰まりを迎えざるをえないという事実に、いつまでも目を瞑っていられるものではなかった。

反面かつて王政を打倒した経験を持つ共和制ローマは、それゆえひとりの人間に権力が集中する体制にアレルギーに近い拒否感情を持っていた。

なにより法を国家の根幹とする社会を築いていたローマ人は、独裁を未然に防ぐためにそれこそ網のように立法を重ねており、わけても「絶対指揮権(インペリウム)」と呼ばれる時限性の軍事権力を与えられた人間の馴致に力を傾注するようになっていた。

ときになりふりかまわず大権を発令して一種のシビリアン・コントロールを固守せんとする元老院の姿勢に大きな疑問を抱いていた若き日のカエサルは、心中ひそかに新たな統治制度の確立を期していたと考えられている。

民衆派マリウスと門閥派スッラという当時軍事権力を背景にすさまじい武断政治を敷いた2人の権力闘争のあおりを受け、その後ようやくカエサルが政治の檜舞台に登場したころには、恐怖政治からの解放なった元老院主流派から共和制を転覆しようともくろむ危険人物とほぼ断定されてしまい、驚異的なスピードでガリア全土を制覇し、いよいよ国内に影響力を行使せんとしていたカエサルの進退はここにいたって窮まってしまう。

直前、武名高らかな一代の英雄ポンペイウスとローマ随一の富貴を誇ったクラッススとの三者同盟も解消されてしまっていたカエサルは、彼の「絶対指揮権(インペリウム)」の剥奪を宣言する元老院に対し、ついにルビコンを越えて軍を進めるのである。

地中海世界最高の武人ポンペイウスとの戦いに勝利し、念願のローマ改革に着手したカエサルは、しかしすぐさま暗殺される。

彼のあとを継いだオクタヴィアヌスが、クレオパトラのエジプトと組んだアントニウスとの覇権争いに勝利して事実上ローマに帝政をもたらすのは、それからわずか15年足らずの出来事であった。




本書の舞台となるのは、8年に渡るカエサルのガリア戦役のほぼ終局期に勃発したガリアの総蜂起。

これまでカエサル率いる精強なるローマ軍によって個別に制覇されてきたガリア各部族を統合し、反ローマの軍を興した若き族長ヴェルチンジェトリックスを一方の主役に配し、立ち向かうカエサルをもう一方の主演役者として対峙させている。

なお、現存するほぼ唯一の資料であると同時にラテン文学の最高峰とも称される「ガリア戦記」は、ほかならぬカエサルその人が陣中にて口述筆記させたもの。

これに全面的に依拠してしまっては作家の沽券にかかわるとでも言うかのように、著者は定説にとらわれない想像力を駆動させて、全ガリアの命運を決するこの一大決戦をヴェルチンジェトリックスとカエサルとの一個の人間同士の争いとして描きだしている。

ガリア制覇の緒から対ポンペイウス戦役を征するまでのあいだ、ほぼ負けるということを知らなかった常勝カエサルに地を舐めさせた稀有の好敵手ヴェルチンジェトリックスとは、いったいどんな人物だったのか。

彗星のごとく現れ、文字通り全ガリアの期待の星となったこの青年に大きく軸足を置きながら、佐藤賢一版「ガリア戦記」は展開する。


本書は、カエサルが備えていた世界性や歴史的背景に加担しないとすると、なるほどこのような書き方しかあるまい、と思わせる内容になっている。

が、ヴェルチンジェトリックス擁する半未開のガリア社会についてはよく調べられているのに対して、ローマ社会とカエサルを駆り立てたものを捨象しすぎたきらいもあり、作品を内から貫く背骨にまるで迫力がなかった。

また人間ヴェルチンジェトリックスと同じく人間カエサルの対比に終始したため、それ以外の部分が粗雑になった観も否めない。

ついには世界(当時のヨーロッパ文明においては地中海の周囲がほぼ世界のすべて)を制覇することになるカエサルの軍略の才を涵養した意味でも、ガリア戦役とヴェルチンジェトリックスの果たした役割は大きい。

そのあたりをじゅうぶん射程に入れ、ガリアの英雄ヴェルチンジェトリックスをローマ人カエサルから世界人カエサルへの劇的変貌の触媒として位置づけた著者の戦略眼は優れたものだったが、残念なことにアンチ「ガリア戦記」に拘泥しすぎて逆に自ら翼を折った結果となったようだ。


「カエサルを撃て」は反抗反骨の徒を愛する佐藤賢一の真骨頂と限界がもろともに表出した作品である、と僕は思う。



佐藤 賢一
カエサルを撃て


オススメ度★★★



他の佐藤賢一作品

「二人のガスコン」

「王妃の離婚」

「傭兵ピエール」