辻斬り書評  -4ページ目

「世界は密室でできている。」舞城王太郎 / 舞城はん、絵も書けまんねんな。


舞城王太郎2冊目。

阿修羅ガール にしてもそうだったけど、ミステリ小説というジャンルで暗黙のうちに共有されているロジックに拘泥しない筋運び、これをもって舞城なり作品をいわゆる文学に分類する流れがあるのだと思う。

そもそもジャンル分けという行為自体便宜的なものにすぎないのだから、作品の横断的な存在様式に特段スポットライトを浴びせてあーだこーだ言うのも詮無きことだが、舞城がピックアップされ続ける一因がそこにあるのだから仕方がない。

小説に限らず、およそ表現たるものは既存のカテゴリ壁を乗り越えて進化していくダイナミズムを孕んでいるものだから、様式うんぬんで作品を評価するなんてのは本来ナンセンスなんだよねー。

でもまあ、ミステリのロジックから逸脱した表現方法に舞城がどこまで意識的なのか、というメタ的な楽しみ方ができるのは事実だし、彼を評価する玄人連の主眼はむしろそっちにありそうな気がするぞ。



さて、肝心の中身ですが。


よーわからんけど、なんやオモロイ。


や、ロジックやトリックが理解不能という意味ではなくて。

なんだかんだ言っても結局、脱構築ぶりがおもしろく感じてるんだろーなあ。

うわー、上記と思いっきり矛盾してますね(笑)。

逆にミステリ小説を読みつけてない人は、この小説のどこに独自性を見い出すんでしょーね?

誰か教えてください。


しかし、「青春エンタ」(今さらですが)とはこういう路線のものをいうのか……。

ふーん。



舞城 王太郎
世界は密室でできている。―THE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS


オススメ度★★

「バッド・ビジネス」アンソニー・ブルーノ / はみだし者の行動原理とは?

なんとなく復活しそうな気配の我がブログであります。
いや、どうかな?(笑)



今回の獲物はアンソニー・ブルーノの「バッド・ビジネス」。

鼻つまみ者のFBI捜査官コンビが悪党をやっつけるという、まー、アメリカのクライムノベルではありきたりなお話です。

この本はシリーズ4作目にあたるんだけれど、わたくし1と3は読んでおりません。

ていうか読む気もありません!

や、別につまらなくもないんだけどねー。読まなきゃならん本は他に山ほどあるし。


それでも成り行き上2冊こなしたくらいだから、そこそこ悪くない。

ではどこがよかったかというと、主役2人のキャラクターに尽きる。

イタリア系アメリカ人で結構2枚目なトッツィと、その相棒で退職間際の老捜査官ギボンズの両名が活躍するのだが、こいつらが一筋縄ではいかないのだ。

トッツィはとにかく性格が粗っぽくてトラブルばかり起こすパンクロッカーみたいなヤツだし、片やのギボンズは頑固一徹で頭が硬く、無骨無愛想なうえに口を開けば憎まれ口ばかり。

直属の上司からも疎まれる文字通り鼻つまみ者のこのコンビなのだが、いざ事件となるとトッツィの直観力とギボンズの粘り強さがうまく機能して、強引に突破してしまうのだ。

つまり芯に熱いものを持っているコンビということになるのだが、それよりも重要なのはこいつらが正義感や職務感で動いているわけではないところだ。

もちろんそれらが彼らを突き動かすマターの一部を成しているのは当たり前だが、ほとんど生来の負けん気がために駆け回っていると言っていい。

今回のケースではトッツィが麻薬組織に嵌められて大量殺人犯に仕立て上げられそうになるから少々事情は違うのだが、自分のために戦う意味では同じだろう。


僕は主人公が他人のために敢然と死地に飛び込むような古色蒼然としたクライムノベルやらハードボイルドには、もう興味がない。

仮にそのような展開になったとしても、主役がそう選択せざるを得ない動機付けがしっかりされていない物語は、とても同調して読み進めることができないのである。


だってそうじゃない?

見ず知らずの依頼者(謎めいた美女とかさー)や、職責がゆえに受け持たなきゃならない被害者のために本当に命をかけられると思う?

美談としてはアリだし、世の中には確かにそういう偉い人もいるけれど、おれ個人は無理だもの。

だから、自分に引き寄せて是か非かで判断してしまうわけ。

家族の命がかかっているとか、どうしようもない借金苦とか、のっぴきならない理由がないとね。

誇りだとか大義なんかを出してくるようでは、てんで話になりません。

そういう抽象的な概念に命を張れる人間って、見方を変えればファシズムに絡めとられる危険性に通じているんですぜ。

しかも大抵の場合は無自覚なんだから手に負えない。

よくできた犯罪小説はその辺りの機微に長けているからおもしろいんだよねー。

主人公の立場が犯罪を行う側であっても、それを取り締まる側であっても。


だから、フロスト警部シリーズやハップ&レナードが好きなんです。

ハップとレナードなんか、警官どころかタダの落伍者のくせに毎度とんでもない事件に首を突っ込む破目になるしね。


本シリーズの特徴は善玉と悪玉が画然としていて非常にわかりやすい点と、そこそこ及第点を与えられるキャラクター造形にある。

それ以外は典型的なハリウッド流サスペンス。カーチェイスあり、事件を間にはさんでの恋人との綱引きあり、裁判あり、マフィアあり。

気になったら読んでちょーだい。



アンソニー・ブルーノ, 玉木 亨
バッド・ビジネス

オススメ度★★★


R・D・ウィングフィールド, 芹澤 恵
夜のフロスト
R.D ウィングフィールド, R.D. Wingfield, 芹澤 恵
クリスマスのフロスト
R・D・ウィングフィールド, 芹澤 恵
フロスト日和
ジョー・R. ランズデール, Joe R. Lansdale, 鎌田 三平
ムーチョ・モージョ
ジョー・R. ランズデール, Joe R. Lansdale, 鎌田 三平
バッド・チリ
ジョー・R. ランズデール, Joe R. Lansdale, 鎌田 三平
人にはススメられない仕事
ジョー・R. ランズデール, Joe R. Lansdale, 鎌田 三平
罪深き誘惑のマンボ
ジョー・R. ランズデール, Joe R. Lansdale, 鎌田 三平
テキサスの懲りない面々

満洲諸相

えー、おひさしぶりです。

なんだか飽きてしまってすっかりブログから離れていましたが、ふと思い立ったので更新してみます(笑)。

現時点での満洲についての認識を、文章化によって自己確認しておきたくなったので。


てなわけで、まずはあれ から入手した関連本を列挙してみたいと思います。

見返すのは面倒なので、重複があるかもしれません。


傾向としては、①関東軍 ②外交官および満洲人士 ③満州国の概略 ④内外の政治情勢の4つに分類できると思います。


①鈴木敏夫「関東軍特殊部隊」 内蒙古アパカ会/岡村秀太郎「特務機関」 藤瀬一哉「昭和陸軍”阿片謀略”の大罪」 阿部助哉「黄砂にまみれて」 西原征夫「全記録ハルビン特務機関」 五味川純平「神話の崩壊」 同「虚構の大義」 島田俊彦「関東軍」 田中隆吉「敗因を衝く」


②幣原喜重郎「外交五十年」 石射猪太郎「外交官の一生」 芳澤謙吉「外交六十年」 重光葵「昭和の動乱」 古川隆久「あるエリート官僚の昭和秘史」 小倉和夫「吉田茂の自問」 クリスティー「奉天三十年」 小林英夫「『日本株式会社』を作った男」 太田尚樹「満洲裏史」 森島守人「真珠湾・リスボン・東京」


③塚瀬進「満洲国」 猪瀬直樹 監修「目撃者が語る満州事変」 小林英夫/張志強「検閲された手紙が物語る満洲国の実態」 山本有造「『満州国』経済史研究」 藤原書店編集部「満洲とは何だったのか」 武田徹「偽満州国論」 NHK取材班「『満州国』ラストエンペラー」


④佐古丞「未完の経済外交」 戸川猪佐武「犬養毅と青年将校」 朝河貫一「日本の禍機」


その他小説 辻真先「あじあ号、吼えろ!」 池上金男「幻の関東軍解体計画」 岩井志麻子「偽偽満州」



と、まあ大体こんな感じ。

前回リストアップしたものもまだまだ未消化なのに、またズンと増えてしまいました(笑)。



では、軽い敷衍と雑感を。


満洲の諸相と記事タイトルに書いたのですが、満洲研究の常識としてあるのがいわゆる「三頭政治」です。

いくどかの統治機構改編や満洲国建国のおかげで、この三頭体制がそのまま満洲国の終焉まで維持されたわけではないのですが、「関東軍(ざっくりと、陸軍の駐満州兵団と思ってください)」、「外務省(領事館)」、「南満州鉄道(満鉄)」の三者が満洲統治の主役を務めたかたちになります。

三者それぞれが行政権や監督権を日本政府から付与されており、関東軍は軍事を中心に満洲統治の主体たるを自認し、全満を軍政下におくべく活動し続けます。

片や外務省は各地に配された領事館とその周辺地域を監督し、満洲国建国までは全満の行政一般にまで関わろうとしますが、常に関東軍および陸軍中央の勢力に妨害され、やがては純然たる外交分野しか扱えないようになっていきます。

半民半官の満鉄はといえば、膨大な社員数と広範な関連事業がために、これまたある程度独立した行政権を保有し、植民地経済を牽引していきました。

最終的に満州統治は、度重なる策動を経ての満州事変勃発以降、既成事実を積み重ねた関東軍の元に収斂されていくのですが、その過程で満鉄の権限もじわじわと削られていきます。


これ以外のエレメントとしては、張作霖をはじめとする軍閥勢力、満洲に定着していたり流れ込んできた漢人・満州人・蒙古人ら「元・清人」、辺境に送られて開拓に従事した日本人農業移民、満洲国建国以降は満洲国政府がここに加わります。

他にも協和会や満映、満業などの単位が挙げられますが、いずれも先の三者ほどの力は持ちえませんでした。


こうした流れの中で露呈していくのは日本国としての植民地経営戦略の甘さや、目的合理性の低さ、排他性なんです。

でもって、その原因を単に為政者層の無能に求めるのは為にする議論でして、本質的に日本人全体の没主体性や閉鎖性が問われるべきなんですよね。

ほとんど国策と言っていい満鉄事業に依存しきった在満民間経済は、現地経済との接続を拒否し続けることによって自家中毒に陥っていくし、「五族協和」を謳ったはずの民族交流もまた然りで、独善と無関心が満洲の地に満ち満ちる。

日本人論のフィールドワークには満洲ほど恰好のサンプルはない、と思います。 

②に挙げた 武田徹「偽満州国論」 なんかは、わりとこれに近い作業をやっています。彼の場合は「共同体幻想論」のテキストとして、満洲国をひも解いてますけどね。



ことほどさような満洲支配の実態は、現地で働いた邦人テクノクラートの動きとの対比がおもしろいです。

特に外務省幹部の手記は軒並みおもしろい。

このラインを中心に今後も探っていけたら、と考えています。




ではでは、今回はこんな感じで。






気になるニュース / まるでプラネテス

中国が弾道ミサイルでの衛星破壊実験に成功

1月19日13時48分配信 読売新聞


 【ワシントン=増満浩志】米国家安全保障会議(NSC)のゴードン・ジョンドロー報道官は18日、中国が弾道ミサイルに搭載した弾頭で人工衛星を破壊する実験に成功したとの判断を示した。

 同報道官は、これについて中国側と協議していることを認め、「宇宙分野での国際協力を目指す精神に反する」と懸念を表明。米国の懸念に対して、日本政府も共有していることを明らかにした。

 実験は米国の航空宇宙専門誌「エビエーション・ウィーク・アンド・スペース・テクノロジー」(電子版)が複数の米情報当局者の話として伝えたことで明らかになった。同誌によると、ミサイルは米東部時間の今月11日夕方、四川省西昌市にある宇宙センター付近から発射された。搭載された弾頭は、標的に体当たりして衝撃を与える「運動エネルギー撃破飛しょう体」で、高度約850キロにあった自国の古い気象衛星に命中、破壊したとみられる。発生した多数の破片は今後、長年にわたって軌道上を漂い、他の衛星を傷つける恐れがある。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070119-00000003-yom-int




すわ、ケスラーシンドローム か!?

宇宙開発の主導権をめぐる熾烈な鞘当てとしても見逃せない動きですが、なんといっても中国が対空防衛に神経を尖らせている証左でもあります。

ほとんど四六時中アメリカの衛星に覘かれている状態は、本来どの国家も看過しえないはず。

これは、アメリカに対する中国の示威行為と見なしてほぼ間違いないところでしょう。

その心意気を買わないこともないですが、すこし方法が拙劣だったのも否めないですね。

やっぱり大国が頑なになると弊害が多いよなー。

気になるニュース / セクシーな男

モウリーニョ監督退団決意、英紙報道

 英大衆紙サン(電子版)は12日、チェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督(43)が今季限りでの退団を決意したと報じた。同監督は編成方針を巡りクラブと対立し、友人に辞任の意向を語ったという。

 同紙によると、モウリーニョ監督は補強の権限をクラブ側に握られ今月の移籍解禁期間での有力選手獲得は難しい状況。同監督が来季はRマドリード(スペイン)かインテル(イタリア)の指揮を執る可能性が高いと報じ、チェルシーの新監督にはロシア代表監督を務めるフース・ヒディンク氏(60)らを候補に挙げている。

[2007年1月13日11時1分]


nikkansports.com より



「傲慢で有能な男」の典型、モウリーニョ。

クールで過激な言動は、まさに憎まれ役のそれ。

こういう男には痺れる。

しかもかなりいい男なんだよね。


画像&動画はこちら(ファンのブログへ飛びます)

http://blogs.yahoo.co.jp/motty_mode/1577482.html



もしレアルに決まったりなんかした日にゃ、モウリーニョ対ライカールト(ロナウジーニョでお馴染みのバルセロナの監督ね)という当代随一の指揮官対決が拝めるわけだ。

こいつはちょっとたまらない。



あらためて見ると、彼の実績はずば抜けてる。

以下はWikipedia から抜粋。



父親のフェリックス・モウリーニョは元ポルトガル代表のゴールキーパーで、少年時代は父親にチームのスパイとして使われ、試合相手のチームの弱点などを探ってくる役目を与えられていたという。ポルトガル のユース代表に選出されたこともあるが、故障により、本人曰く「3流だった」選手生活を早々切り上げたため、プロとしてのキャリアはない。

リスボンで一度、体育教師になるが、指導者の道を志してスコットランド で語学を勉強。ボビー・ロブソン スポルティング・リスボン 監督 に就任した際に通訳 としてスタッフ入りし、以降厚い信頼を受けてロブソンとともにFCポルト バルセロナ の名門クラブで通訳を務める。ロブソンがバルセロナを去った後、監督に就いたルイス・ファン・ハール のアシスタントコーチも経験。

そして、2000年 /2001年 シーズンにポルトガルの古豪ベンフィカ の監督に就く。ライバルのスポルティング を3-0で破るなど順調なスタートを切ったが、会長交代劇などの内紛により8試合指揮を執った後自らリスボン を離れる。

翌シーズン、リーグ中位のウニオン・レイリア の監督に就任。チームを19試合9勝7分3敗・リーグ4位の好成績に導くと、シーズン途中の2002年 1月、当時不調にあえいでいた名門FCポルト に引き抜かれる。彼は残りの試合を15戦11勝2分2敗で乗り切り、低迷していた名門の順位を最終的に3位にまで上昇させた。ポルト監督就任時、彼は不遜にも「(中位に甘んじる)このチームを来年チャンピオンにしてみせる」と宣言し、メディアの失笑を買ったが、彼はそれ以上の偉業を翌年以降成し遂げることとなる。

2002年 /2003年 シーズン、モウリーニョに率いられたポルトは快進撃を続け、スーペル・リーガ ポルトガルカップ UEFAカップ の三冠を達成。彼は指導者として国際的に注目され始める。さらに翌シーズン、圧倒的な強さでリーグ二連覇を成し遂げると、その上UEFAチャンピオンズリーグ をも制覇。ポルトを17年ぶりのヨーロッパチャンピオンに導き、より一層評価を上げた。

2004年 /2005年 シーズンからはプレミアリーグ・チェルシーで指揮を執っている。ここでも就任一年目から創立百周年の記念の年を迎えたチェルシーに50年ぶりのプレミアリーグ制覇をもたらし、リーグカップ とともに二冠を達成。名将としての評価を不動のものとした。2005年 /2006年 シーズンも独走でプレミアリーグ連覇を成し遂げるが、優勝決定後のセレモニーで優勝メダルを惜しげもなく観客席に投げ入れるなど、ここでも物議(とはいえファンは大喜び)を醸している。

今ヨーロッパで最も注目を集める監督の一人。人心掌握術に長けており、マネージメント能力は高い。研究熱心な戦術家であり、相手チームの弱点を執拗に攻め続け勝利をもぎ取ることを得意とする。報酬は年500万ポンド(約10億円)とも言われ、世界で最も給料の高いサッカー監督である。その尊大な態度や挑発的な言動は賛否両論(主に批判)様々な物議を醸しているが、メディアによる批判から自チームの選手を守るための一種のパフォーマンスではないか、との指摘もある。

現在のチェルシーの攻撃スタイル、すなわち中盤を省略して素早く前線にボールを供給し、カウンターからゴールを奪う戦術は実は彼の好みではないという。しかしそうであっても勝つためには手段を選ばないところが、彼らしいところであろう。

バルセロナ の有力スポーツ紙SPORTのアンケートにおいて「2006年バルセロニスタが最も嫌いな人物」に、宿敵レアル・マドリード に移籍したルイス・フィーゴ と並んで、3位に圧倒的大差をつけ選ばれた。

なお、ポルトガル語 での発音の正しい表記はジュゼ・モリーニョ。

自分のチームが試合の土壇場などでゴールを決めた後には大げさではないかと言えるほどの大きなガッツポーズやオーバーリアクションを見せ、喜びを爆発させる。



追記


傑作動画を発見。

英語なのでイマイチわからないけど、どうも「俺の名前を言ってみろ」的なパロディの模様。

わかる人だけ観てください。

ドログバとの架空のやりとりが最高。

ベンゲルをからかっているらしいところもおもしろい。


http://www.youtube.com/watch?v=UBniDRCcciI&mode=related&search =


さらに追記


2005年のチャンピオンズリーグ、チェルシー対バルサのダイジェスト動画。

BGMも含めて、よく編集されてます。

思い返すとやっぱりすごい試合だったね。
あの有名になったロナウジーニョのゴールも拝めまっせ。


http://www.youtube.com/watch?v=Gv9DNnuF1i8&NR

「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・ディヴィス / ぶらり南伊の旅


いきなりだが、このシリーズのいい点は物語が一直線に進まないところにもあると思う。


たとえばあなたが阪神ファンだったとして、恋人と野球観戦に行っていたとする。
一応その最たる目的はチームの応援だとして、たとえば彼氏が隣の年季の入ったおっさんと意気投合して「檜山にはさんざん苦労させられたけど、今となってはやっぱり貴重な存在ですよねー」とか「あの弱い時代を投げとおした藪って、井川に較べると損してるわなー」と言い合ってるうちに、前の席にいた家族連れの小学生が「檜山コラー、三振するんやったら出てくんなー!」と一丁前に罵声を浴びせかけたりする。
すると父親も一緒になって「せやせや、気ィ抜いとったら戦力外通告されんぞお」と同調し、そこで母親にキッとにらみつけられてゴニョゴニョと口ごもるが、ニヤニヤとほくそ笑む我が子の頭を腹いせとばかりにポカンと殴りつける。
火のついたように泣き始める子供を避けながらやってくるビール売りを呼び止めたはいいものの、小銭を取り落として足元を探し回るうちに向こうに逃げられてしまい、ちぇっと舌を打つ彼氏を横目に矢野に黄色い声援を送る彼女、そんな彼女が球場のオーロラビジョンに抜かれて周囲が少しどよめき、後ろのほうからダメ虎時代を知らない男子高校生の集団が「うわー、もろにタイプやあ」などと言い合っている声が聞こえてくる。
そうこうしているうちに気の早い連中がロケット風船を膨らませ始め、おっちょこちょいなやつがタイミングを大きく外してピューと風船を飛ばしてしまうのもご愛嬌。
はい、と手渡された二人分の風船を必死で膨らませる彼氏の姿になぜかときめく彼女と、片やパンパンに膨らまして彼女の顔の前で割ってやろうか、と密かにいたずら心を起こす彼氏。
そんななか、ケロリと泣き止んだ小学生がさっき拾った五百円玉をポケットで弄びながら、明日これで何を買おうかと考えている……。

と、まあ、こんな感じ。

ゲーム観戦(謎解き)がメインだとしても、そこで起こるいくつかの出来事が楽しくてワイワイガヤガヤしているうちに逆転サヨナラ劇(どんでん返し)で帳尻が合い、終わってしまえばおもしろい試合(物語)だったねーと言い合えるのが、密偵ファルコシリーズの真骨頂なのだ。

話の本筋に直接関係あろうがなかろうが、なかなかに多彩なエピソードを織り交ぜつつ、三振を重ねた4番バッター・ファルコが最後には球種を読んでホームランを放つ。

この巻ではファルコにとって大事な人間が次々と危機にさらされるが、それらを乗り越えて訪れる最後のシーンにはちょっぴりホロリとさせられるオマケ付きだ。

基本的に主要人物がいい人間揃いなので読んでいて不愉快さがなく、ファルコとその恋人へレナ・ユスティナのロマンスもいい具合に隔靴掻痒で飽きさせない。


うーん、もしかしたらこのシリーズ、全巻読んでしまうかもしれないぞ。


オススメ度★★★



リンゼイ デイヴィス, Lindsey Davis, 酒井 邦秀
青銅の翳り―密偵ファルコ




「密偵ファルコ 白銀の誓い」リンゼイ・デイヴィス / 古代ローマの私立探偵

ああ、古代ローマ!

およそ1000年の長きにわたって存続し、西洋の母胎と言っても過言ではない、この一大文明への尽きせぬ興味よ!



……と一発ぶちあげたところで、そこは生臭好きな僕のこと(笑)、古代ローマの実に絢爛たる文化よりも、専ら広大なる版図がどのように統治されていったかに魅了されているのだが、これに関して格好のテキストとなっているのは、先月めでたく完結と相成った塩野七生畢生のシリーズ「ローマ人の物語」である。

1冊3000円程度のハードカバー全15巻を揃えるのはさすがにコトなので、もっぱら文庫化されたものを順次読み継いでいるのだが、各時代区分への理解を増すのに最適なのが、その時代を舞台とした別の作品を読むことだ。

たとえば共和制末期なら、カエサルやポンペイウスの台頭を横目に、しがない下級役人がひょんなことからローマをゆるがす陰謀に行き着いてしまう「古代都市ローマの殺人」「青年貴族デキウスの捜査」がおもしろいし、帝国として初めて公式に迫害したことからキリスト教世界では一段と評価の低いネロ帝を描いた安彦良和「我が名はネロ」(この人の歴史漫画は―「虹色のトロツキー」「ナムジ」「神武」「蚤の王」「王道の狗」「ジャンヌ」「イエス」など―事前に予備知識を仕込んでから読むと相当おもしろい。もちろん、後からでもいいんだけど。)が、帝政初期では出色の出来。

そうそう、佐藤賢一の「カエサルを撃て」 もあったな。


庶民生活や文学作品にも目を配っているとはいえ、おもに政治向きの記述を旨とする「塩野ローマ」ではどうしても捉えきれない諸相を理解するに当たっては、これほど楽しい策はない。

また塩野七生自ら何度も作中で書いているように、学者ではなく作家としてローマ史を俯瞰しているため、どうしても介在してしまう彼女の主観や史観を適度に中和する効果も得られるのである。



で、今回の密偵ファルコシリーズなのだが、カエサルからアウグストゥスを経てティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロまでとなるユリウス・クラウディウス朝が途絶し、新皇帝をめぐるしばしの内紛のあとに興ったフラヴィウス朝の始祖ウェスパシアヌス帝の御世の話となる。西暦で言うと紀元70年代だ。

シリーズが進むにつれ、いずれ2代目ティトゥス帝や3代目ドミティアヌス帝の時代に入っていくのかもしれないが、それはまた先の話だろう。


タイトルにもあるように、ファルコは密偵である。わかりやすくすれば私立探偵みたいなもの。

当時のローマ社会にこんな職業があったのかはわからないけれど、このファルコ、一応はごくごく一般の民間人だ。

それがひょんなことから元老院に籍を置く貴族と関わり合いを持つことになり、それがもとで帝国の屋形骨に飛び蹴りを食らわすかのような大事件に首を突っ込むハメになってしまう。

減らず口だけは一級品だが所詮は三流の密偵に過ぎないこのファルコ、方々で小突き回され痛めつけられながら、ハードボイルド探偵よろしく這いずり回る。

その足跡は大都ローマを離れ、辺境も辺境のブリタニア(今のイギリス)にまで及ぶのである!

このあたりが他の少なからぬローマ物とは一線を画すポイントなのだろうが、本シリーズは単に首都ローマにとどまらず、ローマ世界のあちこちで展開する。

次巻はかの有名な死の町ポンペイ付近の南伊が主な舞台だし、1冊飛ばして第4巻ではこれまた辺境のゲルマニア(現在のドイツ)くんだりまで出張っていく。

当然ながら作者のリンゼイ・デイヴィスには該博なる知識が要求されるわけで、ゆえにシリーズのもうひとつの注目点は広辺なローマ社会の情景がこと細かに描き出されている点となる。

僕などは、これがためにシリーズを追っていると言ってもおかしくないくらいだ。

もちろんミステリ自体も悪くないのだが、事件が起こるたびになぜか聞き分けのいい目撃者や証言者が出てくるため、謎解きの妙といった要素はさほど強くない。

正直、筆者のやり方に慣れるまでは眉が何度か吊り上ることも確かだ。そのうち気にならなくなればしめたもの。


とりあえずは、古代ローマを舞台とした恋あり笑いありの時代小説だと思っていただきたい。加えて半ばコメディタッチなところが、シリーズの人気獲得に一役買っているのだろう。

古代ローマに興味のある方はもちろんのこと、読みでのあるドタバタハードボイルドが読みたいという方にもオススメのシリーズである。


オススメ度★★★



リンゼイ デイヴィス, Lindsey Davis, 伊藤 和子
密偵ファルコ 白銀の誓い

塩野 七生
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫
ジョン・マドックス ロバーツ, John Maddox Roberts, 加地 美知子
古代都市ローマの殺人
ジョン・マドックス ロバーツ, John Maddox Roberts, 加地 美知子
青年貴族デキウスの捜査

安彦 良和

我が名はネロ (1)


安彦 良和

我が名はネロ 2 (2)


「城下の人」「曠野の花」「望郷の歌」「誰のために」―石光真清の手記 / もっとも劇的な日本人

戦前の満州始末をつらつらと読解していくなかで痛烈に思うことは、近代日本の諸相はその多くが彼の地からの反射作用ではないか、ということだ。

始まりは対露戦略の要地として、次いで中国侵略の足掛りとして戦前日本の最大懸案事項となった満州。

その満州を磐石ならしめるために、陸軍から政界に転じ首相まで務めた田中義一によってついには対満軍事計画が国家予算案に優先する異常な状態が招来するのを頂点とし、一方で日清・日露両戦争を経て内地の民草一人ひとりの意識が満州権益と不可分になっていくさまは、維新以後の歴史を百年単位で俯瞰したとき、ほとんど地殻移動をもたらすマグマの流れを想起させる。

その迂遠な運動を感得させずしては、いかな近現代史教育も半分は意味を成さないことだろう。過去の事例を将来への教訓とするとき、肝心のハーメルンの笛吹きの正体を知らないままでは、再びネズミは先を争って滅亡の大河に身を投ずることになる。


近代化や国際化、あるいは一言で軍国主義化としてもいいが、日本の針路を決定的に左右したのは明らかに満州であった。

先の戦争を対中と対米の二局に画して考えたとき、敗戦はアメリカによるものとはいえ、国家運営における重要度としては対米戦争など対中戦争の比ではなかったと言っていい。そもそもが、対米戦争は対中戦略の失敗から招いた戦いなのである。

いわば日本はオマケのような戦争で敗れたのだった。



さて、石光真清である。

幼少時に西南戦争を間近で経験し、長じて陸軍士官になってからは日清(台湾征伐)・日露戦争に従軍、その間語学研究のために入露してロシア事情を偵探、以降は北満の専門家として露満を渡り歩く軍事スパイとして活躍した人だ。ロシア革命後のシベリア出兵を機に任務を離れ、満洲国の隆盛を横目に内地で晩年を送った。つまり維新以降の戦争をほとんどすべて知っている形になる。

昭和17年に没したから敗戦を見ることはなかったが、一生を軍に振り回された石光にとってはせめてもの救いだったのかもしれない。


「城下の人」「曠野の花」「望郷の歌」「誰のために」の四部作は石光が遺した手記を子息がまとめたもので、生前の石光本人の手によってあわや焼失の危機にあったものを細君がなんとか救い上げたのだそうだ。

残念ながら失われた草稿も相当あったようだが、それでいて四部作自体の完成度はきわめて高い。


新時代の息吹をその身に感じながら単身ロシアに渡るまでの青雲期を描いた「城下の人」、義和団事件を発端とする「ブラゴヴェヒチェンスクの虐殺」を奇貨とし雪崩を打って満洲占領を開始するロシアに対抗すべく、馬賊社会に潜り込んで各地の情勢を探ったり、はたまたハルビンにロシア軍御用の写真館を設立するなど、若き石光が八面六臂の諜報活動を展開する「曠野の花」、日露戦争での従軍記録と、戦後大幅な組織化が果たされ性質を変えていく陸軍から追われ、以後の零落を予兆する「終わりの始まり」が石光を襲う「望郷の歌」、初老にさしかかり身も心も疲れ果てた石光を再び大陸に狩り出すこととなったロシア革命と、戦略を欠いたシベリア出兵のはざまで「戦いとは何なのか」と懊悩する石光と、目的を失い迷走する陸軍の姿を浮き彫りにする「誰のために」。

このいずれもが、いちいち傑作なのだ。

殊に「曠野の花」などは、一種の冒険活劇と言っても過言ではない。一躍馬賊の顔役となった石光が背面から中国社会の真髄に触れ、また萌芽を見せつつあった現地日本人社会の生育や特殊性を体感していく過程は出色の出来である。

近代日本の焦点であった満洲を、生涯を通じて内側から体験し尽くした石光の自伝は、そのまま日本の側面史でもある。

満州統治機構に属したエスタブリッシュメントと、北の大地に広がって生産に従事した移民たちのあいだを埋める石光のような存在にこそ、満州の本当の姿が見えていたのではないか。


石光 真清
城下の人―石光真清の手記 1
石光 真清
曠野の花―石光真清の手記 2
石光 真清
望郷の歌―石光真清の手記 (1979年)
石光 真清
誰のために―石光真清の手記 (1979年)

オススメ度★★★★★



すいません

一瞬、お地蔵さん好きな外人向けのムックかと思った。


http://www.honya-town.co.jp/hst/HTdispatch?isbn_cd=4054032400



満洲案内

えー、最近あまり小説を読めてません。

というのも主に満洲に関する書物をやっつけているからでして、プラスそこから派生した本を摂取していると、とても小説にまで手が回らない。

だいたい頭も物語脳から切り替わっちゃってますし。


てなところで、今回は満洲関連の本を軽く紹介したいと思います。

興味のある方への、ちょっとした案内になれば。


まず、現在手に入りやすい満洲ものは小説・評論あわせて大別して3つにわけられると思います。


1.侵略日本を告発する歴史読本

2.往時満洲に暮らしていた人たちの体験談や懐旧録

3.各論満洲史および満洲の意義を問い直すもの


で、一般に理解されているような「ザッツ満洲」はおそらく2になります。

これは敗戦とともにすべてを失った人々の引き揚げの苦難を語るものが中心となりますが、最近ではなかにし礼の「赤い月」なんかがそうですね。

今のところ力点を置いていないので、引き揚げ系統の本はかなり不案内です。

体験談や懐旧録という点でいくつか紹介していくと、


歌手・加藤登紀子の母が、亡命ロシア人たちとの交流のなかで過ごしたハルビン時代を懐かしむ「ハルビンの詩がきこえる」

都市から遥か離れた開拓団の生活をイラストを交えて書いた「満州メモリーマップ」

戦後30年にしてかつて抗日ゲリラを率いた楊靖宇の事跡をたどった「もうひとつの満洲」

大連を中心に当時の満洲事情を背面からとらえた「大連ダンスホールの夜」

青年期を敗戦近い満洲の空に送った著者の自伝「満洲航空 最後の機長」

八路軍に加わることで戦後の混乱を生き延び、初期中共の有様を体験した「僕は八路軍の少年兵だった」などなど。


満洲に興味がない人でも読み物として楽しめるのは「僕は八路軍の少年兵だった」ですね。

その他入手済みで未読のものは「満州の遺産」「満州 安寧飯店」「流転の王妃の昭和史」「麻山事件」「大興安嶺 死の800キロ」「少年の広野」「ああ、満洲」「されど、わが満洲」あたりがあります。


続いて1。

探せば腐るほどあるんですが、この種の本はともすれば論点が極小化されやすく満洲の俯瞰にはかえって不向きなので、優先順位が下がります。


簡潔に満洲史の沿革をたどるなら「写説 満洲」は参考になります。社会科の副読本のような感じ。

「『満洲帝国』がよくわかる本」は上記と同じく[太平洋戦争研究会]編。こちらはやや批判のトーンが強め。

「王道楽土の戦争 戦前・戦中編」は『満州国』への夢と野望! と銘打っていたので買ったのですが、これはあまり満洲には関係なかったです。半分は記紀論だし、かといって戦前・戦中の日本の風景を書いたり分析したものとも言えない。なにが言いたいのかよくわからない本。


未読は「ある憲兵の記録」。版元は朝日新聞社。



最後に3をば。これが一番おもしろい。


ハルビンの悪所を調査した極秘資料を復刻した「大観園の解剖」

日露間で活躍する人材を育てるべく後藤新平の肝煎りでスタートした国策学校の推移「ハルビン学院と満洲国」

リットン調査団のシュネー博士が残した日満支見聞録「『満州国』見聞記」

「男装の麗人・川島芳子伝」は川島芳子の虚実入り混じった悲喜劇的な人生もさりながら、養父・川島浪速についても詳述。

おそらく稀有であろう、史学としての満洲「世界史のなかの満洲帝国」

「陰謀・暗殺・軍刀」は満州事変の渦中にいた外交官がつぶさに書いた秘史。ちょっとすごいです。


未読分をタイトルだけ列記。

「満洲の日本人」「満洲国の文化」「実録 満鉄調査部 上下」「三つの祖国」「昭和史の天皇」「満州国の首都計画」「ハルビンの都市計画」「十五年戦争の開幕」「日中十五年戦争史」「満州と自民党」「満州の誕生」「キメラ 満州国の肖像」「後藤新平」「総動員帝国」「大興安嶺に消ゆ」「絶望の移民史」「歴史からかくされた朝鮮人満州開拓団と義勇軍」「阿片王」




その他エンターテイメント小説として


「外地探偵小説集 満洲編」

「満洲探偵 大連の柩」

「バイコフの森」

「赤い夕陽の満州野が原に」
「満洲国物語」

「夕日と拳銃」

「馬賊頭目伝」


浅田次郎も張作霖もの書いてましたね、そういえば。



以上、参考になれば幸いです。





森島 守人
陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想

佐藤 慎一郎, 伊達 宗義
大観園の解剖―漢民族社会実態調査


ハインリッヒ シュネー, Heinrich Schnee, 金森 誠也

「満州国」見聞記―リットン調査団同行記