満洲案内 | 辻斬り書評 

満洲案内

えー、最近あまり小説を読めてません。

というのも主に満洲に関する書物をやっつけているからでして、プラスそこから派生した本を摂取していると、とても小説にまで手が回らない。

だいたい頭も物語脳から切り替わっちゃってますし。


てなところで、今回は満洲関連の本を軽く紹介したいと思います。

興味のある方への、ちょっとした案内になれば。


まず、現在手に入りやすい満洲ものは小説・評論あわせて大別して3つにわけられると思います。


1.侵略日本を告発する歴史読本

2.往時満洲に暮らしていた人たちの体験談や懐旧録

3.各論満洲史および満洲の意義を問い直すもの


で、一般に理解されているような「ザッツ満洲」はおそらく2になります。

これは敗戦とともにすべてを失った人々の引き揚げの苦難を語るものが中心となりますが、最近ではなかにし礼の「赤い月」なんかがそうですね。

今のところ力点を置いていないので、引き揚げ系統の本はかなり不案内です。

体験談や懐旧録という点でいくつか紹介していくと、


歌手・加藤登紀子の母が、亡命ロシア人たちとの交流のなかで過ごしたハルビン時代を懐かしむ「ハルビンの詩がきこえる」

都市から遥か離れた開拓団の生活をイラストを交えて書いた「満州メモリーマップ」

戦後30年にしてかつて抗日ゲリラを率いた楊靖宇の事跡をたどった「もうひとつの満洲」

大連を中心に当時の満洲事情を背面からとらえた「大連ダンスホールの夜」

青年期を敗戦近い満洲の空に送った著者の自伝「満洲航空 最後の機長」

八路軍に加わることで戦後の混乱を生き延び、初期中共の有様を体験した「僕は八路軍の少年兵だった」などなど。


満洲に興味がない人でも読み物として楽しめるのは「僕は八路軍の少年兵だった」ですね。

その他入手済みで未読のものは「満州の遺産」「満州 安寧飯店」「流転の王妃の昭和史」「麻山事件」「大興安嶺 死の800キロ」「少年の広野」「ああ、満洲」「されど、わが満洲」あたりがあります。


続いて1。

探せば腐るほどあるんですが、この種の本はともすれば論点が極小化されやすく満洲の俯瞰にはかえって不向きなので、優先順位が下がります。


簡潔に満洲史の沿革をたどるなら「写説 満洲」は参考になります。社会科の副読本のような感じ。

「『満洲帝国』がよくわかる本」は上記と同じく[太平洋戦争研究会]編。こちらはやや批判のトーンが強め。

「王道楽土の戦争 戦前・戦中編」は『満州国』への夢と野望! と銘打っていたので買ったのですが、これはあまり満洲には関係なかったです。半分は記紀論だし、かといって戦前・戦中の日本の風景を書いたり分析したものとも言えない。なにが言いたいのかよくわからない本。


未読は「ある憲兵の記録」。版元は朝日新聞社。



最後に3をば。これが一番おもしろい。


ハルビンの悪所を調査した極秘資料を復刻した「大観園の解剖」

日露間で活躍する人材を育てるべく後藤新平の肝煎りでスタートした国策学校の推移「ハルビン学院と満洲国」

リットン調査団のシュネー博士が残した日満支見聞録「『満州国』見聞記」

「男装の麗人・川島芳子伝」は川島芳子の虚実入り混じった悲喜劇的な人生もさりながら、養父・川島浪速についても詳述。

おそらく稀有であろう、史学としての満洲「世界史のなかの満洲帝国」

「陰謀・暗殺・軍刀」は満州事変の渦中にいた外交官がつぶさに書いた秘史。ちょっとすごいです。


未読分をタイトルだけ列記。

「満洲の日本人」「満洲国の文化」「実録 満鉄調査部 上下」「三つの祖国」「昭和史の天皇」「満州国の首都計画」「ハルビンの都市計画」「十五年戦争の開幕」「日中十五年戦争史」「満州と自民党」「満州の誕生」「キメラ 満州国の肖像」「後藤新平」「総動員帝国」「大興安嶺に消ゆ」「絶望の移民史」「歴史からかくされた朝鮮人満州開拓団と義勇軍」「阿片王」




その他エンターテイメント小説として


「外地探偵小説集 満洲編」

「満洲探偵 大連の柩」

「バイコフの森」

「赤い夕陽の満州野が原に」
「満洲国物語」

「夕日と拳銃」

「馬賊頭目伝」


浅田次郎も張作霖もの書いてましたね、そういえば。



以上、参考になれば幸いです。





森島 守人
陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想

佐藤 慎一郎, 伊達 宗義
大観園の解剖―漢民族社会実態調査


ハインリッヒ シュネー, Heinrich Schnee, 金森 誠也

「満州国」見聞記―リットン調査団同行記