満洲諸相 | 辻斬り書評 

満洲諸相

えー、おひさしぶりです。

なんだか飽きてしまってすっかりブログから離れていましたが、ふと思い立ったので更新してみます(笑)。

現時点での満洲についての認識を、文章化によって自己確認しておきたくなったので。


てなわけで、まずはあれ から入手した関連本を列挙してみたいと思います。

見返すのは面倒なので、重複があるかもしれません。


傾向としては、①関東軍 ②外交官および満洲人士 ③満州国の概略 ④内外の政治情勢の4つに分類できると思います。


①鈴木敏夫「関東軍特殊部隊」 内蒙古アパカ会/岡村秀太郎「特務機関」 藤瀬一哉「昭和陸軍”阿片謀略”の大罪」 阿部助哉「黄砂にまみれて」 西原征夫「全記録ハルビン特務機関」 五味川純平「神話の崩壊」 同「虚構の大義」 島田俊彦「関東軍」 田中隆吉「敗因を衝く」


②幣原喜重郎「外交五十年」 石射猪太郎「外交官の一生」 芳澤謙吉「外交六十年」 重光葵「昭和の動乱」 古川隆久「あるエリート官僚の昭和秘史」 小倉和夫「吉田茂の自問」 クリスティー「奉天三十年」 小林英夫「『日本株式会社』を作った男」 太田尚樹「満洲裏史」 森島守人「真珠湾・リスボン・東京」


③塚瀬進「満洲国」 猪瀬直樹 監修「目撃者が語る満州事変」 小林英夫/張志強「検閲された手紙が物語る満洲国の実態」 山本有造「『満州国』経済史研究」 藤原書店編集部「満洲とは何だったのか」 武田徹「偽満州国論」 NHK取材班「『満州国』ラストエンペラー」


④佐古丞「未完の経済外交」 戸川猪佐武「犬養毅と青年将校」 朝河貫一「日本の禍機」


その他小説 辻真先「あじあ号、吼えろ!」 池上金男「幻の関東軍解体計画」 岩井志麻子「偽偽満州」



と、まあ大体こんな感じ。

前回リストアップしたものもまだまだ未消化なのに、またズンと増えてしまいました(笑)。



では、軽い敷衍と雑感を。


満洲の諸相と記事タイトルに書いたのですが、満洲研究の常識としてあるのがいわゆる「三頭政治」です。

いくどかの統治機構改編や満洲国建国のおかげで、この三頭体制がそのまま満洲国の終焉まで維持されたわけではないのですが、「関東軍(ざっくりと、陸軍の駐満州兵団と思ってください)」、「外務省(領事館)」、「南満州鉄道(満鉄)」の三者が満洲統治の主役を務めたかたちになります。

三者それぞれが行政権や監督権を日本政府から付与されており、関東軍は軍事を中心に満洲統治の主体たるを自認し、全満を軍政下におくべく活動し続けます。

片や外務省は各地に配された領事館とその周辺地域を監督し、満洲国建国までは全満の行政一般にまで関わろうとしますが、常に関東軍および陸軍中央の勢力に妨害され、やがては純然たる外交分野しか扱えないようになっていきます。

半民半官の満鉄はといえば、膨大な社員数と広範な関連事業がために、これまたある程度独立した行政権を保有し、植民地経済を牽引していきました。

最終的に満州統治は、度重なる策動を経ての満州事変勃発以降、既成事実を積み重ねた関東軍の元に収斂されていくのですが、その過程で満鉄の権限もじわじわと削られていきます。


これ以外のエレメントとしては、張作霖をはじめとする軍閥勢力、満洲に定着していたり流れ込んできた漢人・満州人・蒙古人ら「元・清人」、辺境に送られて開拓に従事した日本人農業移民、満洲国建国以降は満洲国政府がここに加わります。

他にも協和会や満映、満業などの単位が挙げられますが、いずれも先の三者ほどの力は持ちえませんでした。


こうした流れの中で露呈していくのは日本国としての植民地経営戦略の甘さや、目的合理性の低さ、排他性なんです。

でもって、その原因を単に為政者層の無能に求めるのは為にする議論でして、本質的に日本人全体の没主体性や閉鎖性が問われるべきなんですよね。

ほとんど国策と言っていい満鉄事業に依存しきった在満民間経済は、現地経済との接続を拒否し続けることによって自家中毒に陥っていくし、「五族協和」を謳ったはずの民族交流もまた然りで、独善と無関心が満洲の地に満ち満ちる。

日本人論のフィールドワークには満洲ほど恰好のサンプルはない、と思います。 

②に挙げた 武田徹「偽満州国論」 なんかは、わりとこれに近い作業をやっています。彼の場合は「共同体幻想論」のテキストとして、満洲国をひも解いてますけどね。



ことほどさような満洲支配の実態は、現地で働いた邦人テクノクラートの動きとの対比がおもしろいです。

特に外務省幹部の手記は軒並みおもしろい。

このラインを中心に今後も探っていけたら、と考えています。




ではでは、今回はこんな感じで。