収穫祭 ~幸村 誠「ヴィンランド・サガ3」&惣領冬実「チェーザレ1 2」 | 辻斬り書評 

収穫祭 ~幸村 誠「ヴィンランド・サガ3」&惣領冬実「チェーザレ1 2」

幸村 誠
ヴィンランド・サガ 3 (3)


でました、「ヴィンランド・サガ」の最新刊。

いやはや、毎度のことながら全編戦闘です。


未見の方のために説明するとですね、「ヴィンランド・サガ」は中世ヨーロッパ(の、主に北方)を荒らしまわったヴァイキングのお話。名高い戦士であった父を失った少年トルフィンが、その父を手にかけた傭兵団の長アシェラッドらと行動をともにしながら成長していくという筋です。

当然このふたりは緊張関係にあって、まあ古狸のアシェラッドがトルフィンをいいようにあしらっているんですが、冷徹な価値観をもつ統率者と、がむしゃらな若者を描くことに関してはピカイチの幸村 誠だから、両者のあいだにはなんともいえない独特の空気があるわけです。

このへんがまずたまらない。

で、タイトルにもある「ヴィンランド」というのは、レイフ・エリクソンが発見したという北米大陸のことなんですね。

学術的には証明されたとは言えないんだけど、コロンブスよりも500年早くヴァイキングがアメリカに到達していたというこの説を下敷きに、ヨーロッパ大陸にとどまらぬ地理的なひろがりをもったサーガが展開されていきます。

今回の新刊ではこの空間性に加えて時間性が強調されるシーンもあって、歴史漫画の奥深さを感じさせてくれます。

ロマンですよ、こいつは。


「プラネテス」の作者が描く、むくつけき男の世界。

しかしこの漫画、女性ファンはいるのかねえ?




惣領 冬実
チェーザレ破壊の創造者 1 (1)
惣領 冬実
チェーザレ破壊の創造者 2 (2)


これは拾い物。

イタリアの梟雄チェーザレ・ボルジアの生涯を問い直す試みのもとにスタートされたらしいんですが、チェーザレファン垂涎の出来になっております。

完全に俗化したローマ教会において頂点に君臨する父教皇(法王)のもと、イタリア統一をもくろむ若き天才チェーザレ・ボルジア。

32歳にして志半ばに斃れることになる彼の、時代を超越した熱く冷酷な精神がどう描かれるのか。

日本ではあまり知られていない重要資料に依拠した「新説チェーザレ・ボルジア伝」に期待大。

壮大な歴史物語が編まれそうな予感にワクワクしています。


この作品、内容はもとより、教会の内装から衣服の一枚に至るまで心尽くされた時代考証がすばらしいです。

歴史漫画の一番難しいところって、実は小道具や背景がどこまで正確に復元されるかなんですよねー。

「ヴィンランド・サガ」しかり「チェーザレ」しかり、そのあたりに抜かりがないから安心して読める。

まったく知らないままに買ったんだけど、いい漫画に当たりました。

たまには漫画の新刊コーナーにも行ってみるもんだなあ。



塩野 七生
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷


↑ チェーザレ・ボルジアといったらコレ。曹操や信長にも通底する創造的破壊が、あますところなく語られています。