「検校の首」向谷匡史 / お江戸のダークヒーロー | 辻斬り書評 

「検校の首」向谷匡史 / お江戸のダークヒーロー

検校というと知らない人が多いかもしれないが、座頭というと途端にわかる人が増えるだろう。そう、映画「座頭市」の座頭だ。

座頭というのは江戸時代の盲人官位のひとつである。

え、と思うかもしれないけれど、座頭とは幕府に裏づけされた立派な位のひとつで、盲人の組合的組織である「当道座」における官位のこと。

といっても幕府から直接禄を得ていたわけではなく、彼らはもっぱら琵琶などの音曲や鍼灸をこととして生活を営んでいた。

幕府は当道座を庇護する立場にあり、その系譜は室町時代にまでさかのぼる。

座頭のうえには勾当(こうとう)、別当(べっとう)、検校(けんぎょう)があって、ピラミッド状の階層を形成していた。

当道座は入座者には訓練を施し、組織化して盲人社会全般を取り仕切る機構だったそうで、最高位の惣検校ともなると中大名と同等の権威・格式が与えられたのだという。

また盲官には私金融を営む権利が与えられ、いわゆる高利貸しを営む者も少なくなかったのだそうだ。



で、本書である。

個人的に戦国時代から江戸前期までの御伽衆を少し調べていてたまたま当道座に行き当たり、「へえ、検校てのはなかなか大層なもんだったんだなあ」と興味を掻き立てられたのが発端で、いくつか検校に関する書籍を入手したうちの一冊がこれだった。

いざ手にとってみるとシリーズ第2弾だったらしく、主人公は闇金の顔を持つ髪結いの青年で、短編連作の全編を通じてその主人公と対峙するのが検校という構図。

これはマズったかなとも思ったのだが、いきなり本書から読んでも特に影響はなく、検校に関する情報も多少は含まれていたのでまあよかったのだが、肝心の内容となるとどうもいけない。

画竜点睛を欠くというか、もっと端的に表現して魂が入っていないというか、江戸庶民の生活をよく描き出しているわりに、主人公の存在意義が薄すぎて迫力もなにもあったもんじゃない。

せっかくのダークヒーロー像が全然生かしきれていないのである。

陰も葛藤もない「必殺仕事人」を想像してもらえれば、だいたいの印象は当たっているだろう。

あたら良い素材を無駄にしてしまった作者には少し失望させられた、というのが正直なところだ。

定番の時代劇を観る感覚で時代小説を楽しみたい人にのみ、おすすめできるのかもしれない。



オススメ度★★



検校の首 江戸の闇鴉2 [ベスト時代文庫] (ベスト時代文庫)/向谷 匡史
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