白河の清き流れに棲みかねて…… | 辻斬り書評 

白河の清き流れに棲みかねて……

毎度お久しぶりです。

もう随分前から休眠ブログと化しているのに、なぜか読者登録の申請はちらほら頂いております。

なんとも、ありがたくもお恥ずかしいかぎりです。

そしてgoldiusさん、いつもコメント&トラックバックに気づかないで申し訳ねーす。



てなところで。

最近はそうですねー、胸が躍る小説に出会ってません。バイオリズムも物語を求めていない時期に来ているようで、この方面は丸っきり沈滞しております。

貸してもらった北方謙三の「三国志」も、予想通りクソおもしろくないですしねえ。

本当によくもまあ、こんなくっだらない小説が書けるもんだ。

彼を読むといつも「ある種の驚嘆」を禁じえないのですが、それは端的に言って商業的に成功し続けている泳力と、ゴミのような小説でもコンスタントに生産し続けられている馬力の二点に集約されます。

僕の主観なんざ、この事実の前では屁のツッパリにもなりませんよね。

どれくらい驚嘆させられているかというと、「プロ」のひとつの形態として彼を賞賛するにやぶさかではないくらいです。

赤川次郎はその著作数において本邦屈指のモンスターですが、彼には遠く及ばないにしても北方謙三も相当のものではないか、と好悪の感情を超えて評価しつつある今日この頃です。

北方謙三ファンの方がいたらゴメンなさい。


えー、さて。

語るに足る(いやはや、毎度エラソーにすいやせんねえ)読み物としてこのところ白眉だったのが、田沼意次関連の著作群です。

田沼はいわゆる汚職政治家の代表的存在で、皆様ご存知のとおり、賄賂まみれの俗物として巷間に流布しておりますわな。

ところがどっこい、経綸家として彼を高く評価する学説も一方ではあって、研究者筋ではむしろこちらのほうが優勢なんだそうな。

僕も何冊か読んでみましたが、たしかに田沼はちょっと時代離れした発想の持ち主で、これは元々が下級武士という彼の出自がそうさせた部分が大きかったみたいですね。

当時の幕閣は錚々たる面々(禄高あるいは家格の点で)が任じられるポストでしたから、農業に根ざさない田沼の思想はさぞかし異端に映ったことだろうと思います。

彼の事績として代表的なものを挙げると、町人資本を積極的に活用して行われた印旛沼をはじめとする各地の開拓事業、いわゆる規制緩和を行って活発な商活動を奨励し、農本社会からあらたに徴税層を創出した(闇経済であったモグリの売春婦までも体制に組み込むくらいだから徹底している)税制改革、功罪相半ばではあったものの関東の金経済と関西の銀経済を連結することに成功した通貨改革など、この時代にあっては画期的な政策を多々打ち出しています。

おまけに数十万単位の移民を動員して蝦夷地(北海道)を開発しようと画策し、調査団まで送り込んでいたんだから驚かされます。

つまり重農主義が行き詰まりを露呈し始めた江戸中期の社会情勢にあって、思い切って重商主義に舵を切った開明的な政治家だったんですね。

残念ながら田沼の失脚直後に行われた寛政の改革、これがゴリゴリの保守派・松平定信が断行した反動政治みたいなもので、田沼が道筋をつけた経済路線をそれこそ粉微塵にしてしまいます。

おお嘆かわしきや、新時代の幕開け未だ訪れず。ムム、無念……。



どうです?

けっこう目からウロコでしょ?

田沼意次の名に付いて回る汚職や収賄についても、落ち着いて考えてみると確かにそうだよね、程度問題なんだよなー、と納得のいく説明があったりします。

へえ、と思った方は下に紹介する本を手にとってみてくださいね。

江上照彦「悪名の論理」なんかはかなりの田沼贔屓で楽しいですよ。

あ、ちなみに佐藤雅美の本は小説としては四流ですのでご用心。

山本周五郎、村上元三の各小説は僕も未読で、これから読む予定です。



そうそう、前の記事で少し触れていた福田和也ですが、「もっと枚数を使って本格的に論じてくれなきゃヤダ!」と一言申し述べさせていただきますー。





山本周五郎「栄花物語」


大石慎三郎「田沼意次の時代」


悪名の論理―田沼意次の生涯 (中公新書)/江上 照彦

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田沼意次―御不審を蒙ること、身に覚えなし (ミネルヴァ日本評伝選)/藤田 覚

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田沼意次と松平定信/童門 冬二

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天明蝦夷探検始末記―田沼意次と悲運の探検家たち/照井 壮助

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田沼意次―主殿の税 (人物文庫)/佐藤 雅美

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田沼意次/村上 元三

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