まあ、なんですな。 | 辻斬り書評 

まあ、なんですな。

最近語りたくなる小説に出会っていないかったり、小説から離れて専門書や実用書を読むことが多かったりで、ますますブログと縁遠い毎日を送っております。

近所の大学に、ちょっくら経済学を勉強しに行ったりしてるし。

goludiusさん、コメントとトラックバックに気がつかないでスンマセンしたー。

読んで得する本でしたよね、あれ


というわけで、久しぶりにパパッと殺陣をば。



「逃げ出した秘宝」「最高の悪運」ドナルド・E・ウェストレイク


毎度おなじみ、ドートマンダー・シリーズ。この愉快な泥棒シリーズの醍醐味はシチュエーションの妙なんだけど、今回読んだ2冊は両方ともなかなかの出来。

仕事ついでに盗んだ指輪がとんでもない代物で、複数のテロ組織やFBIからそれこそ死に物狂いで追いかけられるドートマンダーが、大々的な取り締まりのとばっちりを受けてチンチン沸騰している街中の悪党連中からも追われてしまう、「逃げ出した秘宝」。

いずれの陣営も犯人捜索に血道をあげるなか、ニアミスありスウィングバイあり、薄氷を踏み脂汗にまみれながら何とか切り抜けようとするドートマンダーの運命やいかに。

今回の味方はケルプたったひとり!


「最高の悪運」は、シリーズの中でも指折りの佳作かもしれない。運の悪さにかけては世に隠れなきドートマンダーではあるが、まさか盗みに入った先で逆に奪われる羽目になるとは!

しかもそれは、幸運の願掛けに、と恋人から贈られた大事な大事な代物。

こりゃ許せん、と奪回に燃えるドートマンダーだが、なにしろ相手は世界を飛び回る富豪ビジネスマン。今日はN.Y、明日は海外、4日で帰って西海岸、急に変更ワシントン、その後の予定は秘書でも知らぬ、といったようなすさまじい有様。

居場所をつかむだけでも大変なのに、当の相手に仕返しを勘付かれたドートマンダー、いったいどうやって盗み返すのか、はたまた盗み返せないのか。三々五々に集まってくる仲間たちの心根も楽しい、シリーズ中興の一冊。




ポンペイの四日間 (ハヤカワNV)/ロバート・ハリス

¥903

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古代の世界で実しやかに繰り広げられるミステリってのは面白いよねー。

ときは西暦79年、ローマ帝国は南に位置する都市ポンペイ。左様、ヴェスヴィオ火山の大噴火によって都市がまるまる灰燼に帰したあのポンペイですぞ。しかも、物語は噴火の2日前から時を刻み始める。

前任者の失踪をうけてはるばる派遣された新任の水道官アッティリウスは、おりしも発生した(ローマが歴史に誇る)水道の不具合を調査すべく山に分け入る。

これ実は、火山活動で隆起した地層が水源地近くで地下水道を破損したことが原因なのだが、そんな不穏なプレリュードなぞてんから知らぬアッティリウス、若いとは申せ、名誉ある水道官の家系に生まれた者の沽券にかけて、なにやら意を含むところのある部下や油断ならない街の実力者たち相手に、堂々の立ち回りを見せようというところ。

と同時に、確実に忍び寄る天変地異。大地の異常現象と人間(じんかん)の異常現象とのあいだに横たわる謎と危機。はてさて若きアッティリウスは任務を全うし、生き延びることができるのか。

「博物誌」の著者にして当地の水軍司令官である、かのプリニウスを軸にして進むサイドストーリーも光る。



荒ぶる血 (文春文庫)/ジェイムズ・カルロス ブレイク

¥800

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任侠漫画のタイトルみたいな名前やねー。ということで、J・C・ブレイクの本邦第2訳目。

先に読んだ「無頼の掟」はアウトローの青春ロードノベルで、血と汗のバイオレンス(ノワール風味)にそこはかとない甘酸っぱさを漂わせた、プリンに醤油をかけて食うが如き非対称さが功を奏した逸品だったが、今作は「おいしいカレーを作ってあげるね」と出されたのが名店のレトルトだった、といった風の、美味しくいただけましたが心はあまり弾みません的な内容。

いや、パクリとかそんな意味じゃござんせんよ。味付けの妙が当人の手によらない、というだけで。一言で片付けてしまうと、主人公の造形が借り物みたいでつまらない。でも、料理としてはそこそこいける、みたいな。

次回に期待。




てなあたりで肩がこってきました。

いま傍らに置いてあるリチャード・ハワード「囚人部隊誕生」、遠藤周作「反逆」、成田良悟「バッカーノ」、福田和也「第二次大戦とは何だったのか」については、また次の機会に。

明日かもしれないし、来月かもしれないけど。

「第二次~」についてはちょっとだけ語りたい気もするので、比較的近い時期にするかもしれませんねえ。

ロバート・ウォード「四つの雨」については時宜を逸したので、もう書かないでしょう。だけど★5つを献上。男子不惑を超えたらば読むべし。何も感じなかったら木石。ンな人とは話しもしたくない。

僕もまだ20代だったら、おそらく本書の滋味は味わえなかったでしょうねー。カニミソ、いやいやサザエのキモの苦味を芯から美味く感じられるくらいに酒舌が成熟してきたら読みどきです。


そうそう、上に上げた4冊は「最高の悪運」が★4つで残りは★3つでした。



第二次大戦とは何だったのか (ちくま文庫 ふ 37-2)/福田 和也

¥777
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四つの雨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ウ 21-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ウ 21-1)/ロバート・ウォード
¥798
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