「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」塩野七生 / 歴史の必然? | 辻斬り書評 

「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」塩野七生 / 歴史の必然?

塩野七生といえばなんといっても大著「ローマ人の物語」だが、ヴェネツィア共和国の千年にわたる盛衰を描いた「海の都の物語」もよく知られているところだ。

今回紹介する「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」は、その補助線ともいうべき三部作になる。

「レパントの海戦」のあとがきで、著者は「異なる文明の対決を描いてみたかった」と述べているが、この3作を読んでみて思いを新たにしたのは、文明の衝突が人類史もたらしたパラダイムの変化に意識的であればあるほど、歴史を立体的に知ることができるという事実である。

たとえば、拓かれつつある大西洋航路と対称的に没落に向かう地中海貿易や、十字軍が過去の栄光でしかなくなったキリスト教世界の最後の晴れ舞台としてこれら3作は用意されており、著者はそこで西洋史の転換期を示している。

「ローマ人の物語」同様、一義的なテーマは組織論および外交論であると断言してもいいのだが、大局的観点がしっかり盛り込まれているので、もっと巨視的に読み解くことが可能となるわけだ。

また個別の戦争にフォーカスしているため、戦記ものとしての読み味も格別だ。

以下、各巻の内容を簡潔に。



「コンスタンティノープルの陥落」では、千年の都がついに陥落した理由を単に物量や技術の差に求めるのではなく、オスマン=トルコの専制国家という新しい統治システムがヨーロッパ旧来の封建制度よりも機能的に働いたためとし、この事件を分水嶺としてヨーロッパ世界にも絶対王政の時代が到来することに触れ、まるで時代がコンスタンティノープルの陥落を欲していたかのように、読者は人類史の潮目が変わったことを知る。

続く「ロードス島攻防記」では、コンスタンティノープル陥落=ビザンチン帝国の崩壊を受け東の守りを失ったヨーロッパのリアクションを問い、さらなる「レパントの海戦」では、一応の反撃は成したものの地中海がヨーロッパの中心であった時代が最早終わりを迎えることを示し、その最後の光芒を描き出している。わけても国運をかけて戦ったヴェネツィア共和国の姿は、著者の愛情を差し引いてなお、美しい。



以上を、塩野七生はまるで手相を読むようにして語る。この作家は複線の交差が持つ意味をきわめて明確に書くので、読み手にしても焦点が合わせ易い。

小説として眺めると登場人物に些か説明的なセリフが多いのがわずかに瑕疵だが、もとより本義は別のところにある。

できれば3冊継続して読まれたいところだが、それぞれ独立した物語なので興味をひかれたものから手にとってもらいたい。



オススメ度★★★★





塩野 七生
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
塩野 七生
ロードス島攻防記 (新潮文庫)
塩野 七生
レパントの海戦 (新潮文庫)