ああ無情(前編) | 辻斬り書評 

ああ無情(前編)


草木も眠る丑三つ時ー。


崩壊した体内時計の再調整を期し、半ば涎まみれになりながら辛うじて眠りの縁に留まっていたのですが、なんということでしょう、突如として眠気がすっかり抜けてしまいました。

な、な、な、なんでやねーん!!

なんかね、「スコーン」という音が聞こえたような気さえします。

知らないうちに音速の壁でも突破したのかしら。

すごいね。人体の不思議だね。


てなわけで、久しぶりにエントリしてみます。

前後半に分けて都合10冊、ザックリとですが。

嗚呼、今度は眠りが怖い(お茶が怖い)。




岩井 志麻子
偽偽満州


別に満州が舞台やのうてもええやん、という内容。

ついた嘘に自ら騙されることさえできる天性の嘘吐きにして垢抜けた女郎が、ひょんなことから悪い男に惚れてしまい、殺人を犯して内地から満州へと逃亡するも愛した男に売り飛ばされ、愛憎のまにまに大陸を流れ歩くお話。

罪深き愛の逃避行という側面や、無縁ゆえの男への妄執を浮き立たせるための舞台装置とはいえ、あるいは同時代の日本にはないエキゾチックな雰囲気を演出したかったがゆえの「満州」であるのは理解できるけど、まー、悪いけど岩井志麻子は満州についての知識が薄いなあ。

なんて、歴史小説じゃないんだから別にいいんだけどねー(笑)。


岩井志麻子の一貫して「女」にこだわり続ける作風には最早オリジナリティさえ漂っているけれど、そのむせ返るような女臭のおかげで、僕ぁもうおなかいっぱいです(笑)。

あと、男女間の愛憎を妖しく細やかに描いたら、即、文学であるぞよ、と解説でのたまっている花村萬月にもまいった。萬月もすっかり女臭くなっちまったなー。



米村 圭伍
面影小町伝
米村 圭伍
退屈姫君 海を渡る (新潮文庫)
米村 圭伍
退屈姫君 恋に燃える


口直しに、とばかりに米村圭伍を三連発。

落語・講談調の語り口がなんとも軽妙洒脱で、読んでいるうちに自然と口元がほころぶ米村時代小説ではありますが、「面影小町伝」に限っては、これにさきがける「風流冷飯伝」「退屈姫君伝」とは明らかに毛色の違った作品となっています。

ほのぼの三部作の最終作のはずなのに、急転直下、やけに殺伐としたシリアスストーリーになっているじゃありませんか。登場人物も背景も共有しているのに、そりゃないっすよー!

たとえてみれば子供向け漫画が、ある回から急に大人向けの劇画になっちゃったような変貌ぶり。

もっというと、ドラえもんが突然ターミネーターになるようなもんで。

のび太もおちおち昼寝もできなくなっちまうぜ。


うへー、と辟易させられたところで書き下ろしの「退屈姫君 海を渡る」「退屈姫君 恋に燃える」を読み直し、やれやれすべて元通り。ほのぼのしていておもしろい。

しかし「面影小町伝」はいったいなんだったのだろう、いっそのこと無かったことにしてもらえないかしら。

米村さん、意欲はおおいに買いますが、そういうことならシリーズを分けるべきでしたね!



杉作 J太郎
男の花道


漫画エッセイとでも称すべきか。男の男による男のための作品、あるいは馬鹿な青春時代に捧げる学ランエレジー。でもね、おそらくは40代以上の読者にしか接続できないノスタルジーで満たしすぎですよ、この本。

というか、ピンポイントでその層を狙ってるんだろうけど。

いつの時代も男子は馬鹿だよねー、というお話。ザッツ昭和!



後半へ続く